2019年10月11日
内外政治経済
研究員
今井 温子
2018年末、数年ぶりに欧州旅行を楽しんだ。ちょうどクリスマスシーズンに重なったこともあり、ドイツ・ミュンヘンの通りや店舗は人でいっぱい。ほんの束の間ではあったが、消費の活況ぶりに景気の底堅さを感じて帰国した。
ドイツ・ミュンヘンのクリスマスマーケット
(写真)筆者
ところが今振り返ると...。それは一つの側面に過ぎなかった。米中貿易摩擦の激化などで、足元の欧州経済は減速感を強めているからだ。言い訳じみて聞こえるだろうが、生産や輸出から変調を来したため、ドイツの消費現場では景気減速を感じ取れなかったのだろうと、自分を納得させている。
欧州主要国の実質GDP成長率
(出所)Eurostatを基に作成
今、欧州各国は不安だらけである。ドイツやイタリアでは政局が混乱、フランスでは「黄色いベスト運動」と呼ばれる政府に抗議するデモが起きた。マクロン政権はデモに譲歩して2019年に予定していた燃料増税を断念した。それによって財政赤字の対GDP比が欧州連合(EU)の定める3%以内という基準を達成できない見通しとなった。
欧州主要国の財政赤字(対GDP比)
(出所)Eurostat、各国の政府予算を基に作成
そこでフランスが新たな税収確保のために打ち出したのが、デジタル課税の導入だ。国際ルールづくりが各国で議論されている最中に、先行してマクロン大統領は「デジタルサービス税」法を公布した。
デジタル課税とは、タックスヘイブン(租税回避地)などの税率の低い国に本社を置いて納税するグローバルなIT企業などに対し、本国並みに課税しようとするものだ。先進各国は税収減に頭を痛め、インターネット空間で巨額の利益を上げながら巨大化したGAFAなどを苦々しい思いで見ていたのは間違いない。そこに徴税の網を掛けようと、現在、経済協力開発機構(OECD)と20カ国・地域首脳会議(G20)が、2020年に向け国際ルールの策定を進めている。まず、OECDが2019年10月9日、原案を公表。GAFAなどグルーバルに事業展開する企業に対し、当該国に拠点が無いケースでも法人税を課すスキームを示した。
というのもデジタル課税のルール設定する上では、解決すべきいくつかの課題があるからだ。例えば、課税対象ビジネスはデジタルサービスだけか、あるいは無形資産まで含むのかというのが一つ。また売り上げに対する課税か、利益に対する課税かという点でも議論が割れている。仕組み次第ではIT企業だけでなく、グローバル展開する製造業にも大きな影響が及ぶ。さらに徴税後に各国でどう配分するかなど国家間の利害対立も予想される。例えば、先述のフランスのデジタル課税政策に対し、トランプ米大統領が異議を唱えたのも、GAFAを抱える国の指導者としては当然だろう。
そして日本はG20の議長国として、この問題で調整能力が問われている。米国が抜けた後の11カ国による環太平洋パートナーシップ協定(TPP11)交渉では、安倍政権は粘り強く調整に当たって各国をまとめた。だからデジタル課税のルールづくりについても、日本がイニシアティブを発揮できるのではないか。柔よく剛を制し、日本なりのリーダーシップを発揮してほしいと願うばかりだ。
今井 温子